第20回定期演奏会 第四ステージ 男声合唱組曲「水のいのち」

「水のいのち」は、混声合唱組曲として、1964年に放送初演された。当時カワイ楽譜の社長でもあった作曲家清水脩からすぐに出版要請があり、翌年に楽譜が出版されると、たちまち全国に広まり、1966年には女声合唱、1972年には男声合唱の初演が行われ、10年のうちに混声・女声・男声のすべての楽譜がそろった。
その後、50年以上経過した今も、楽譜史上の最多出版数を更新し続けているという、合唱をする者にとって、一度は歌いたい名曲の代表格である。
作曲者の高田三郎氏は、この作品を書くことになった動機について、著書「来し方」の中で、「人の肉体はよいものであり、もっともっと大切にされなければならないのであるが、人にはまた精神というものもあり、その精神が賛成しているのでなければ、どのような生き方をしても、人はそれに満足することができない。その『精神』に目と心を向けてもらうために、この〈海〉を含む合唱曲を書こう、と決めた」と述べている。
また、この作品の大意について、『水の一生』というよりも、”The Soul of Water”すなわち、『水の魂』であるという。そして、『魂』とは、「それがあれば生きていけるが、それを失えば死んでしまうもの」なのだという。さらに、「水の『魂』とは、低い方へ流れていく性質のことではなくて、反対に『水たまり』は『空を映そうとし』、『川』は『空にこがれるいのち』なのであって、それはまた、私たちの『いのち』でもあり、この組曲の主題でもあるのだ」と述べている。
もう一つ、高田三郎氏は教会音楽に精通され、日本語の合唱曲にグレゴリオ聖歌の手法「小リズムのアルシスとテージス」を取り入れた最初の作曲家でもある。言葉を重視された氏は、高低アクセントをもつ日本語と旋律との融合をとても大切に考えられた結果だと言われている。         (参考文献 佐野智子 編著「高田三郎 祈りの音楽」)
さて、私自身が「水のいのち」を歌ったのは、大学生のころ、この曲が楽譜になって数年後でしょうか、混声合唱でした。いろんな曲をたくさん歌ったと思うのですが、ずっと心に残っていて、何かの拍子にふとその一節がよみがえるのです。一番よく出てきたのは、第4曲「海」の「しかーし」のところ。しかも、当時の合唱団員の声で出てきます(笑)。すると、「海」の曲全体がよみがえり、そこから全部の曲が順不同に再生されます。他の曲のばあいも、似たようなことは起こるのですが、「水のいのち」は特に頻度が高いような気がします。
このようなわけで、私自身の人間性や変なクセまで、皆様におきかせすることになるかもしれませんが、この曲集を愛するが故のこととしてご容赦くださり、名曲を楽しんで聴いていただけるなら、私にとってこの上ない喜びです。          
(吉岡 和男)